<<<旧記事>>><第4回>スポーツ用品小売業界 "アルペン&ゼビオ"
さて、今回はスポーツ用品小売業界です。
ランニングシューズやゴルフ用品にも、製品を作る"メーカー"、メーカーが作ったものを買い消費者に販売する"小売店"が存在します。
小売店というと聞こえは難しいですが、要はスポーツショップです。
このblogで取り上げた家電業界のビジネスモデルは"メーカーが作る→小売店が売る"という一般的なものでした。
そして前回は、ニトリ・無印良品・ユニクロなどの"小売店が製品を作り販売もする"製造小売業という新しいビジネスモデルに変わっているという話をしました。
今回は、
①売上首位陥落のアルペン "スポーツ用品店が直面している3つの課題"
②急成長を見せるゼビオスポーツ
について触れていき、日本のスポーツショップの現状について触れていきます。
①スポーツ用品店が直面している3つの課題
【課題❶:Amazonなどネット通販の台頭】
スポーツ用品を販売するお店にとって、現在最大のライバルとなっているのがAmazonなどのネット通販です。
スポーツ用品店に行かなくてもクリック1つで商品を買えてしまい、これによりスポーツ用品小売業は大ダメージを食らっています。
"スポーツ用品は試着や試し履きしないと買わないよ!"という人もいるかもしれませんが、店舗で試着や試し履きをした後に、価格コムで店舗より安い場所で買うという"小売店のショールーミング化"というのが、小売業界では大問題になっています。
お店に置いてあるものが安く、しかも送料無料で家まで届けてくれるのであれば、そうしますよね。
じゃあどうすれば売上が上がるのかということで、実はスポーツ用品の小売業界にも早くからプライベートブランドを出している企業があります。
例えば、数年前までスポーツ用品小売業界の売上トップだった"アルペン"です。
アルペンは、オリジナルブランドの"IGNIO"を所有しています。(製造・販売元はグループ会社の"ジャパーナ"。)ではこれがめちゃくちゃ売れているのかというと、そうではありません。
同じプライベートブランドのユニクロのようには売れておらず、街で着ている人を見かける機会も少ないと思います。
それはなぜかというと、ニトリや無印良品、ユニクロと違い、消費者がスポーツ用品を買う際、"ブランド"を気にするからだと個人的には思っています。
私服で着る無地のTシャツを買う際、ブランドものだろうが無印良品だろうがユニクロだろうがあまり気にしない人は多いです。
しかし、野球のグローブやランニングシューズを買う際には、NIKEやadidasのロゴが入っているのか、無名のブランドのロゴが入っているのとでは、全く同じ性能の製品だったとしても価値が変わってきます。
これが【課題❷:スポーツ用品業界ではプライベートブランドは成功しない】です。
そしてNIKEやadidasの話を出しましたが、キヤノンやニコン、SonyやPanasonicといった日系企業が世界の頂点に立つカメラや家電業界と違い、スポーツ用品業界は外資系の会社が世界をリードしています。
どういうことかというと、スポーツ用品業界では、トップメーカーと日本の小売店の関係が希薄なため、NIKEやadidasといった外資系は"メーカー直売店"をどんどん繁華街に出してきています。それにより、贔屓のブランドがある消費者は小売店に行かずに"NIKE Shop"や"adidas Shop"に足を運びます。
(家電業界では、メーカーと小売店が日本でともに発展してきたという歴史があるため、持ちつ持たれつの関係性で、メーカーが直売店を出すことは少なく、出しても小売店より高い金額で販売することが多いです。)
これが【課題❸:メーカー直営店の存在】です。
そんなこともあり、アルペンは店を大量に閉めてネット販売に力を入れたり、中国からも撤退するなどし、2年前に初の赤字となりました。
そして昨年、守り続けてきた国内売上首位の座をゼビオスポーツに奪われました。
②急成長を見せるゼビオスポーツ
さて、昨年アルペンを抜いて国内売上首位の座を奪取し、今急成長を遂げるのがゼビオスポーツです。
ちなみに売上の半分は買収したヴィクトリアで、ゴルフ用品が中心です。
このゼビオスポーツが業績を伸ばしている理由をざっくりいうと"単なる小売じゃない"ことにあります。
理由は大きく2つ。
【ゼビオの特徴❶:店舗販売の強化】
さて先程、Amazonなどのネット販売が脅威を奮っているという話をしました。アルペンはネット販売を強化するという方向性に舵を切りましたが、ゼビオスポーツは逆に店舗販売に重きを置き、ネット販売に対抗しています。
例として、今年の3/30に御茶ノ水にオープンした超大型店では"プロテインバー"なるものがありプロテインを全て試飲できたり、"ミニスポーツパーク"と称して店舗内にバスケや卓球をする施設を作り、スポーツ用品を試すことができます。
また、9/22にオープンしたばかりの渋谷公園通り店では24時間商品の受け取りが可能なフルタイムロッカーの設置や、トレッドミルによるランニングシューズの試し履きができます。
"体験・体感"を軸に、来店の動機作りに力を入れています。
ー余談:渋谷という街ー
ゼビオスポーツの渋谷への出店に関して、渋谷はワールドカップなどで"若者がbarに集まる"独特の文化に勝機を感じての出店なのかと踏んでいます。もともとスポーツショップも多いですし。
ただ個人的に渋谷は以前に比べ尖った店が少なくなり、チェーン店ばかりになったため、池袋化したと思ってます。むしろ買い物の利便性に関しては池袋の方が上だと思います。最近まで営業で渋谷に週2で行っていましたが、家電に関してはインバウンド需要しかありませんでした。海外展開を進めるゼビオの、訪日客に対するブランドアピールでしょうか?
さらに今回ゼビオが出店した公園通りに関しては、パルコが入っていたビルの閉館、GAPの閉店などで特に過疎化しています。
いまこの地に出店するということは、2年後の東急による再開発化を見越しているのだと思いますので、"2年後まで業績が立たなくても金銭面の問題はない"という余裕があるのでしょうか。
-余談終わり-
さらに、ゼビオは現役・引退アスリート採用も積極的に行なっているため、店舗に現役アスリートがいて販売員のブランド力を高めていることも特徴の1つです。(ちなみにゼビオは、スポーツ選手の採用強化のアドバイザーとして北島康介さんを起用しています。スポーツに関するビジネスは、第一回で取り上げた北島康介さんやスポーツ庁初代長官の鈴木大地さんなど、元水泳選手が一歩リードしている印象です。)
このように、店舗を"ただ商品が並んでいるショールーム"にするのではなく、様々な体験や現役アスリートの接客などによって集客力を高めています。
"製品価値"ではなく、製品の"使用価値"を訴求しています。
【ゼビオの特徴❷:小売以外のビジネス】
ゼビオは企業理念を"こころを動かすスポーツ"とし、スポーツと関わる事業を多角的に展開しています。
例えば、ドラッグストアやカジュアル衣料、スポーツスクールの運営やプロアイスホッケーチームの運営など多岐に渡ります。
"ただモノを売る会社"ではなく、スポーツ文化そのものにアクションを起こす会社です。
現役・引退スポーツ選手の採用強化もそのためと言えます。
中でも特徴的なのが、仙台駅から1駅のところにある"ゼビオアリーナ仙台"です。
バスケ、卓球、フットサルなどのリーグ戦に使われているアリーナですが、大ビジョン・音響・ライティング・VIPルームなど、日本には今までにないと派手なものとなっており、"魅せるスポーツ"が可能になっています。
今までは教育の延長である体育館で行われていたスポーツ観戦を変えるものとなっています。
まさに企業理念にある"こころを動かすスポーツ"の体現です。
どんな企業であれ、社長に世の中を変えるための理念がある会社であれば、時代に合わせて形を変えることで成長し続けることができます。
逆に、理念のない"モノを買って売ることしかできない企業"や、逆に"モノは作るだけの職人さん"はどんどん淘汰されている印象があります。
就職活動の参考までに。
また今回最後にあげたゼビオスポーツの小売以外の取り組みは"新規事業・海外事業"と呼ばれる分野で、入社してその仕事をするのは狭き門と思います。
実際に総合職で入社した際は、"店舗販売員→店舗経営者(店長やエリア長)→バイヤー"と出世していくことと思います。
小売業の花形でもある"バイヤー"はメーカーから商品を買い付ける仕事で、メーカーの"本部担当"といわれる人たちと商談します。
小売のバイヤーは会社から『メーカーから1円でも安く買ってこい』と言われ、逆にメーカーの本部担当は会社から"できるだけ高く売ってこい"と言われます。この2人の商談になるので壮絶な争いになることは必須で、強靭なメンタルがないとやってられません。
店長やエリア長といわれる人たちも、会社から"売上達成必須"という思い数字が降りかかってくるため、かなりシビアです。
ご参考まで。
まとめに。
さて、今回はスポーツ用品小売についてみてきました。
メーカーと小売店の繋がりが濃いカメラ業界や、小売店がメーカーの機能を持ったインテリア業界・ファッション業界とは違った文化です。
次回は、今回少し出てきたNIKEやadidasといったスポーツメーカーを見ていきます。
アシックスやミズノといった日系企業や、個人的に好きなアンダーアーマーも触れます。
そしてさらにその次の回は、アンダーアーマーの日本総代理店であるドーム社をみていきます。
以上。